降り止まない雨の例えの後で、だけれど私は、と君は笑った。私は陽の温もりだけで足りるほど謙虚な人間じゃないよ。
そんな古い記憶を巡らせたのは、君から届いた「らしく」はない便りに動揺したせいなのかもしれない。格式張った招待状の隣で歪にひと折りされた便箋には「おほほほ、ほほ」の文字だけ。その折り方と屈折した読点だけが、僕の知っている君に結びついている。どうやって、どうやって嫁ぎ方を学んだのだろうと思ったよ。
だらしのない君の交際録は、ヒミツという名の誰もが知っている共有情報だった。ここだけの話だけれどね、なんて行から多くの交際相手とパトロンが登場し、僕らは中学生のように身を乗り出して君を喜ばせる。謙虚に生きられないのは傘の差し方を知らないだけなんだ、と誰かが擁護しようとして怒らせたことは、君だけが忘れてしまう挿話になった。きっと今頃、皆も同じように動揺して思い返しているはずだ。


若くして籍を入れた僕に「馬鹿だよね」と軽口をたたいた君。コンチクショウ いつかその時は! なんて考えていたけれど。その前に。
温もりに満ちた君に、拍手を。