2005-01-01から1年間の記事一覧

映画と音楽と、二十六歳だからこその低俗な話。 それから君たちの事について。 地球が三百六十五回転もした後だから、僕らはふらふらに酔いまくって騒ぐだけで良いよな。

新聞に折り込まれた流通広告をさり気なく目の着く所に置いてみたり、ぶらさげる靴下は新品で、なおかつ大きめの方が良いのだと教えてみたり。煙突のない家にはどうやって入るの?という質問にだって、その頃にはきちんとした答えを用意出来ているのかもしれ…

ひとつひとつ遣らなければならない事を思い出して、それを順序良く構成する。久々に一人で過ごす休日だから、そうしない事には上手く過ごせない気がした。 本棚の整理、床磨き、バス・トイレ掃除、ファブリーズ。 洗濯槽がまわる音と秒針のリズムが上手く調…

ゆっくり吐き出すと立ち昇る螺旋。 白い息を何度も確かめる君に笑う。僕はその仕草を真似てみる。煙草のように輪を放とうとして、だけれど上手くはいかなくて。今度は君が笑っていた。 十一月の空は、いつも泣き出しそうな表情をしていた。どこまでも広がる…

ちりんと、どこかの窓辺から聴こえてくる。 夏の終わりを見過ごしてしまったのは、そんな外し忘れた風鈴のせいなのだと思う。アスファルトに染み込んだ雨も、誰かが零した悲しみも、帰る雲を見失ったかのように漂う冷ややかな空気。街は夏の後ろ姿に誘われて…

予定よりも半月ほど早い報せに、僕は思いきり動揺していた。 彼女の体調が良くなかったせいもある。その不具合が君に影響する事も知らされていた。五日前に「最悪の場合もある」と言われ、「ああ、またか」なんて思ってしまったんだ。僕らの周りはいつも別離…

街を焦がす音。いつもは煩わしいと感じているのだけれど。 線香花火は中盤に味わうものだと僕は言った。君は最後を締めるものだときかなかった。毎年の様にこんな遣り取りを繰り返して、それを笑っている奴らがいる。分かっているよ。この後で怒った君は、鼠…

一九九九年。ノストラダムスの話なんかじゃない。 二十歳だった頃の僕は、Ben Folds Fiveの「Steven's Last Night in Town」ばかりを聴いていて、そのくせ鼻唄や口笛でしか奏でることが出来なかった。それは僕の、もとい僕らの一九九九年を語る上で外せない…

スターマインが鳴る夜空。 あの日と同じ高架下で、あの日と同じように声を嗄らせるためビールを浴びて。頭上を走る電車の騒音が沈黙をもたらす瞬間だけ、居心地の悪さを表情に浮かべている。 まだ話してはいない君との挿話なんてあったかな。そう振り返って…

君が、扇風機に向かって、あーって。 僕も真似をして、あーって。 そして、スイッチを切った後の気怠るさを。 覚えている。覚えているよって思う。

強く地面を踏み込んで、導火線の音から逃げだした。 高く昇る煙線。僕らは打ち上げた落下傘を求めて、芝生に足を滑らせたり、服を引っ張りあって転んだり。大人気なく草色を染み込ませながら追いかけるけれど、上手くは笑えていないと感じているよ。 夏の報…

例え世界中の人間が、雨男雨女に属していたのだとしても。 僕は傘を持ち歩かないし、濡れる時には濡れておきたいから。ただ憂鬱を六月の雨のせいにしたのは卑怯だったかな、なんて思っているよ。

泣き出した原因は知っていても、その止め方までは分からないものだって、そういえば君が言っていたよな。君がそんなふうに話し始めるから、どんな話なのか予想だってつきやすかった。今はそれが急に苦しくなっただなんて、簡単には言えなかったんだよな。

いつかは何も思わなくなってしまうから、その前に自分自身で整理をしておきたいだけなの。言葉はひどく脆弱なものを選びながら、だけれど凛とした声で君は言った。色を褪せさせるだけの時間や、今さらの正論を持ち出してくる他人の言動なんかに、感情を奪わ…

雨の通る音。 解除をし忘れたアラームみたいに、望まないタイミングで窓を叩くから、驚いた眠気は逃げてしまった。せっかく一筋の光も漏らさぬように閉じられたカーテンを、愛おしく思い始めていたところだったのに。夜明け前の空の気紛れに、明日が来なけれ…

僕らは軽口なんかで、記憶を彩り直したり、君の不在を埋め尽くしているよ。七回忌とはそんなものだったなんて知らなかったな。 六年前の君には、どうでも良いことなのかもしれないけれど、世界には知る権利と同じくらいに、知らずにおく権利があるはずだった…

眠れない君に付きあって、午前四時の朝焼けを眺めていた。 薄い雲。陽をよく透しそうな雲だった。同じ空は二度とないというのに、何度も目にしたような姿をしているから、君は何かを思い出そうと息を潜めて身体を預けている。 僕は「西陽よりも朝陽のほうが…

片足だけ踏み込んだ前線。 咲き誇る前に気づいたのは初めてかも、そんな君の言葉で僕にも見つかってしまった桜は少し震えているようだった。 肌寒い日曜日。街は雲の流れを読めず、大粒の雨に打たれたばかり。それでも過ぎ去った温度を信じて花は目覚めよう…

君を乗せてペダルを漕ぎながら感じた、あの穏やかな風を覚えている。 コースターのような海岸通りが帰路だった。スピードに掻き消されそうな声に振り向いて、聞き返して、誤魔化されて、また笑う。もう視点を変えただけではどうにもならない色や背景は、忘れ…

春雷から逃げるように走った。 咽が渇いたからと焼酎ロック。バーボンロック。弱音を吐いて烏龍茶。いったい何杯目で飛んでいったのだろう。記憶はレッドアイの存在意義を語ったところまで。どうしようもない箇所で途切れているから、目覚めたこの場所がどこ…

「久し振り」と弾む君の声を聞いて、本当に会って良かったと思える。 きっと八年という月日が流れたのは嘘なのかもしれない。ひとつひとつ君の仕草が僕のイメージと重なって、不意に「変わらないなあ」と笑ってしまう。それはお互い様で、僕らはそれそれと指…

君へと伝染する欠伸が愛おしくて、笑った。 短い春陽。吐息はまだ白さを覚えていながら、時々、この街はそんなふうに彩ることがある。花や草木は彩ることをまだ思い出していないから、代わりに鳥や僕らが欠伸をするしかない。 春が来るずっと前から暁を覚え…

鳥は色のついた声で唄う。 僕は譜面と化した電線から聴こえる奏でに、人よりも少し遅れて春を見つけた。どうしてこんな春雨の降りそうな空に向けて唄う事が出来るのだろう。きっとそのまま雨が降り出しても、最初に虹を見つけるのは彼らなのだろうな。今はそ…

悲しみは融けてゆく。そう言ったのは誰だっただろう。 許容量が平均以下の自分でも、痛嘆を詰め込まれただけでは壊れることができず、自分は強い人間なのか、ただの薄情者なのかが分からなくなる。きっと僕らが物足りなさを感じてしまうのは恵まれているから…

幼馴染みは少しだけ変わっている。 喧嘩の時に刃物を持ち出す六歳児は知っている中でも彼だけだった。 中学の頃に煙草の焼跡で繋いだ左腕の北斗七星を見せて「北斗神拳を極めてしまったぜ」なんて喜んでいるのも彼だけだった。 典型的と言えばそうなのかもし…

雨に打たれる街並。 陽にあたって解ける雪が見たいと言って、カーテンを閉じた。ごろんと僕が寝そべると、それを待っていたかのように君も続く。薄暗い部屋のそう低くもない天井をふたりで眺めながら、僕らは話をした。 例えば、生まれてくる子供の事。君は…

体温を三十九度に設定してサボタージュ。 次の嘘は考えてあるの?と笑う声の方へ腕を伸ばす。届かなかった分を君が縮めて、そして僕は寝具の温もりからやっと離れる事が出来た。冬は好きだけれど寒いのは苦手なんだ。まるで犬と猫との掛け合わせのようだと君…

誰も彼もがお決まりの台詞に聞き飽きたと。 それでも、あけましておめでとう。 どうせ外れているのだろう、なんて罵りあうのも風物詩になったな。