何かを失う時くらい、君は構えるべきだった。
そんな相槌を返す僕に「ただの説教なら訊かない」と君が笑うから、ただの見解だよと誤摩化した。君はひと呼吸を置いたまま物思いに耽り、やがてお気に入りの台詞を口にするように「彼に忘れられてゆく私は何を忘れられるのか」と尋ねてくる。僕は前置きに、今直ぐでなくても構わないのなら、なんて言葉を選んだ後、きっと思っているよりかは多くを忘れられるよ、と答えた。ひとりだけではその鮮やかさも輪郭も映し出せなくなるんだ。
君は「やっぱりただの説教じゃない」と背中を叩く。今度の吐息は、溜め息だった。