一九九九年。ノストラダムスの話なんかじゃない。
二十歳だった頃の僕は、Ben Folds Fiveの「Steven's Last Night in Town」ばかりを聴いていて、そのくせ鼻唄や口笛でしか奏でることが出来なかった。それは僕の、もとい僕らの一九九九年を語る上で外せない一つの挿話。「 口にする英語はてんで出鱈目なんだぜ 」っていう挿話だった。
この年の五月中旬。早生まれだった友人は成人を迎える事なく逝ってしまう。「Steven's Last Night in Town」は彼が見つけてきた曲だった。時代の波に乗り遅れるな、そう息巻いてCDトレイを開けた彼。この曲が収録されているアルバム「WHATEVER AND EVER AMEN」は一九九七年に発売されている。“乗り遅れるな”じゃない。すでに二十四ヶ月も“乗り遅れていた”のだ。だけれど彼の思惑通り、僕らはBen Folds Fiveに熱を上げる事になる。二十四ヶ月遅れの波に向かって、パドリングをはじめるのは簡単だった。


一九九九年。ノストラダムスなんてどうでも良かった。
二〇〇〇年は誰の所にも平等に訪れると思っていた。だけれどそれは言う迄もなく勘違いだった。
これは、世界の終わりを笑い飛ばしていたあの頃のメモワール。
鼻唄と、口笛と、てんで出鱈目な英語を奏でて。「まだ覚えていないのかよ」と苦笑う今日に続く挿話だ。