微睡んだ夜。隠れた月や星の代わりに三月最後の雪が降っていた。
突然、タイミングが悪いなあ、と君は肩でマフラーを持ち上げる。その台詞と唐突さを訝んだ表情で見る僕らに気づかないふりをして、煙草を続ける君。そういう誤魔化し方は良くはないよ、と君の仕草を真似て困らせた。
つまらない冗談で声を上げる。手の平も叩く。その音が痛いくらいに夜空を駆け巡るから、微睡んだ夜に似合わない事をしたなって思った。どうしてこんな夜に限って、願い事を聴かせたくなるのだろう。月も星も見えない夜に限って、どうしてなのだろう。


咥えていたフィルターをゆっくりと吸い込んだ。
紫煙と冷気との相性の良さが、いつだって好きだった。
そして、鼻先に残った低い温度。まるで泣き出す瞬間の痛みに似ているから、タイミングが悪いなあ、と君に笑ってみせた。