フィルターを焦がした熱は、その指へと伝わる前に絶えていた。
知らぬ間に終わっていたのはそんな事くらい。夏に綴った挿話は次の季節へ跨ぐ事はなく、それぞれが句読点を付けて締めくくられる。
いつか読み返す為に、それが僕らにとって必要な事だった。
その後の話を少し書こうと思う。
ほんの数週間前から綴られる、新しい挿話。


二人の友人が入籍をした。僕が二十二歳で結婚を決めた時に「馬鹿だな」と口を揃えていた二人だ。今度は言われる側に変わっていた。それがたまらなく可笑しかった。
転職を決めた友人もいる。聞く話によると同僚のミスを被ったついでの決意だとか、そんな美談。たぶん嘘。
パトロンの恋人と別れた友人。理由は中学生が喜びそうな内容だった。成人になった僕らでさえ身を乗り出してしまったのだから。
あの日、彼女の傍にいた他の友人たちの日常も変わり始めている。
なぜこんな短期間に?なんて話にもなったのだけれど、返事は曖昧なもので充分だった。
そして僕。僕にはまだ何の変化もない。
相変わらず多忙なふりをして生きている。


握りつぶしたケースには、まだ一本だけ煙草が残っていた。
苦々しく思いながらも周りの反応を愉しみに、僕はその一本を抜き出して火を点す。
「懐かしいな、その次元仕様」
そんな僕らは、いつもあの頃と比べながら現在を受け入れている。